ーーーーーメルマガ『 チクタク No,41』  23,Jun,2006ーーーー

百聞は一見にあらず!古時計の参考資料を眺めていても得られる知識は知れた物です。
編集長が平日の3月1日名古屋で開催される会合の機会に金山の「二都玉うどん」さんにお寄りする
話を聞いて近隣にの皆様が参集なされた訪問紀です。私費を投じて『黒柿』を光X線による元素分析
をした白雲木さんが1年を要した研究論文を確とご覧下さいませ!!

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<名古屋駅桜通り口交番前 午前9時集合>          亞陀

 私とねじり鉢巻さんとで「二都玉うどん」で昼食を食べる話が広がって、解説者にと戸田さ
んオシドリIさん、更紗のさらさん、瀬名ごんさんが仕事を放ったらして駆けつけてくれました。
漸く見つけた喫茶店で朝礼、今回初参加の瀬名ごんさんが制作中のユンハンススタイルスリゲ
ルケースの写真をご披露され、まさかマニアがケースを作るとは一同驚きの歓声を上げました。

 午後1時過ぎに隣の金山駅下車、更紗のさらと井村さんのご案内で、明治時代風の建物「二
都玉うどん」のドアを開けた瞬間から我々を壁から見透かすようにレアな古時計達が迎えてく
れました。書籍でしか見た事もない素晴らしい銘品に眼を見張るばかりです。食事中のお客様
に遠慮がちに、壁一面隙間無く掛かった時計を一階の奥まで見学しました。たしかこの時計は
あの本に、こんな変形&珍品時計がこれほどあったとは、恐れ入りました!3階まで階段の壁
には手の届く高さにびっしりと並んでいます。完全に古時計と一体化したような錯覚に陥った
一同は目を奪われてしまいました。2階にはハートH精造所製のあのヴァイオリンがさり気な
くあったのには開いた口が塞がりません。ほかにも古看板も多くこちらも造詣が深いそうです。
予約席で一服していたら戸田さんが加わり、時計談義が最高潮になった頃に定食のうどんに舌
鼓。
 外国の時計もいいですが、世界中に数多く存在します。そのてん国産物は数が多いとお思い
ですが、所謂レア物は非常に少なくて価値があります。なかでも、外国物をコピーした物、変
形物、奇抜な物、極小や短期間生産の会社製品は特にコレクターの垂涎の的となります。掘り
出物が良くでた東北地方も底を就き、例え情報か時代と言えどもグローバルに漏れてしまい欲
しい物は入手困難な時代になっています。例を挙げれば、あのハートH精造所製のあのヴァオ
リンにしても生産個数は解っていてその個数は即世界中さがしても生産個数は限られ、世界に
数点しか存在しない事になります。 

時計道のレベルを上げれば上げる程、原点に戻ってしまい国産物に落ち着くものだそうです。

肝心の店主I氏は検査入院でお留守でしたが、食後は一点ずつ戸田さんの詳しいご解説付きで
更に感銘を深くしました。










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< 二都玉 見聞録 >          ねじり鉢巻さん 

 今回のメルマガ読者の番外時計談義は編集長様の会議が始まるまでの空き時間を利用して急
遽決定され、遠くは瀬名権さんも参加され大変充実した時間を過ごさせて頂き先ずはお礼申し
上げます。
 目的地のうどん店「二都玉」さんはお昼時は大変混雑していると聞き時間をずらして伺うこ
とにして先ずは喫茶店で時計談義の花盛り・・・そんな中、
瀬名権さんがご自分で作製されている「黒柿スリゲルタイプ」の時計ケースの写真(白木塗
装前)を見せて下さりビックリ仰天どう見ても非の打ちどころの無い素晴らしさ、瀬名権さ
ん恐れ入りました。
 趣味を同じくする面々が腰を下ろして話し始めると時間の経つのは早いもので気が付いた
ら喫茶店に1時間も居ることに気付き、次に向った東急ハンズでお好みの各種材料を物色し
つつ時間つぶし、私はここで瀬名権さんから木工ルータの手ほどきを受け、木工にはルータ
が必要不可欠と知りました。
       (瀬名権さん近日中に購入しますからまたご指導下さいね。)
 程よい時間になり目的地の二都玉さんには名古屋駅から一区間先の金山駅にJRで移動、此
処からは徒歩で10分弱細長い黒塗りの5階立てビル全体が二都玉さんのお屋敷で、この店
舗の3階までがお店だと聞き我々が描くうどん屋さんのイメージとはかけ離れ和洋館タイプ?
店内に入れば白壁を基調とした中にアンティークな木製カウンターやテーブルの調和がうま
く溶け合い其処に我が愛する時計達が整然と立ち並ぶ姿には圧倒されました。
それも状態の良いものばかり、中々お目にかかれない梟時計なんかも何羽も掛かっており珍し
い子持ち梟も我々を見下ろしていたりして・・・。
時計の他にも、吊りランプ・木製古看板・蕎麦猪口・明治大正期の電笠や氷コップetcそのど
れもが名品揃い。
 我々はお店のご主人と懇意にしておられる戸田さんに予約席を設けて頂いており、腰を下ろ
したところでこの戸田さんとも合流、先ずは「うどん定食」で腹ごしらえ・・・調度品に恥じ
ない美味しさ(また来よっ)此れで下準備も整い、先ずは著名なTさんから店内の時計の説明
をして頂き、ため息!また、ため息!後は席に戻り、尽きない時計談義が予定時間まで続いた
のでありました。毎度ながら編集長はじめ遠方からご参加下さった瀬名権さん、そして二都玉
のご主人に落ち着ける席をご予約下さった戸田さんにお礼申し上げます。


    



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< 黒柿考 >                 白雲木

チクタク読者の皆様今晩は、前々から黒柿について書こうとしていましたが、こんなにも遅れ
てしまったことお詫びいたします。あまり参考にならぬかもしれませんがどうかご勘弁を。

さて黒柿である。古来、多くの人を魅了して病まないその美しさは時を経ても変わることはあ
りません、箪笥や棗などその美しさに比して非常に高価で取引されています。言わずもがなチ
クタク読者の皆様であれば時計、黒柿貼のユンハンスや精工舎のスリゲルは時計好きには垂涎
の逸品、たとい全く同じ形の同型であっても黒柿と他の塗りでは風格に大きな違いが出てしま
います。当時としても値段に相当差があったことと推察されます、私の所のある時計は黒塗り
なのですが、最初の所有者でしょうか、墨で黒柿ふうの模様が入れてあり涙ぐましい努力の跡
が伺いとれます。おそらく黒柿の時計が欲しかったのが、価格に手が届かず泣々あきらめてそ
うしたのでしょう。
 
このように黒柿が高価である理由はことにその希少性から来ています、あちこちで見聞きした
ところ一万本に一本だとかなんとかいいますが、調べたところ現在もそこそこの流通量があり
ますし、カキノキ材の全体量から考えて大体百本に一本ぐらいあるのでは無いかと私は推測し
ます(明確な根拠はありませんどなたか詳しい方ご教授を)。もし1万本も柿の樹を切って1本
しか見つからない樹でしたら、おそらく今頃の日本中の柿の木が切り尽くされているはずです。
そもそも柿の木は材が堅く加工しづらいため、杉や檜のように大規模に植林されている樹では
ありません、一般的には柿の木は果樹ですので材として育てられることは希のようです。

黒柿は植物分類上、カキノキ科カキノキ(学名Diospyros kaki)という種類で、多くの品種があ
り、本州以南では普通に栽培されています。南アジア原産のDiospyros ebenumという種類は黒
檀として有名です。カキノキ科の樹木は非常に堅い材で加工も難しいのですがその美しさから古
来、家具や楽器などの用材として珍重されてきました。

ここからが本題なのですが、なぜ普通のカキノキが黒柿に変化するのか?ということです、カキ
ノキはもちろん生きた植物です、日照条件、水分条件、地質条件などその樹木が育つ環境が関わ
ってくることは間違いありません。先人が普通の柿の木を黒柿にするため、何か秘伝の薬を柿の
木の周りにまいたという話があるぐらいです。


( 白雲木さんが時計道にはいるきっかけとなった所有の黒柿の時計です。)
私はまずこの黒柿の黒い部分が如何様な元素によるものか、まず蛍光X線による元素分析にか
けて見ることにしました、黒い部分に含まれているものが何らかの特殊な地質からくる何らか
の元素である可能性があるからです。結果は残念ながら違いました、同じ材の白い部分と黒い
部分では元素的にはほとんど変わりませんでした。結果から黒い部分は何らかの有機化合物で
あることが判明しました。次に植物生理学の観点から文献調査したところ、黒い部分の正体は
カキノキ自身が生成する有機化合物のタンニン(広義であり様々な化合物が知られている)が
蓄積したものと判明しました。タンニンは植物が環境からの様々なストレスに対する生体防御
という機能を果たしています、ストレスの代表的なものとしては、哺乳類や昆虫による摂食や
病原菌による感染などの生物的要因によるもの、及び紫外線、活性酸素、栄養欠乏等の非生物
的要因によるものがあります。樹木が自己防衛のために生成する物質がタンニンと言うわけで
す(柿の実の渋みもタンニンです)、黒柿はこのタンニンが材に特に多く蓄積されたものと考
えられます。そうしたことから、黒柿は樹木として生育環境に恵まれない場所に多産したこと
が伺えます。木の周りに秘伝の薬をまいて黒柿化したという話も虐待栽培(薬が吸収され材に
直接蓄積したものではない)という観点から見ればあながち嘘ではなさそうです。

結論は黒柿とはカキノキのストレスによる生理障害に起因するものと判明しました。具体的に
どのような環境下におかれると黒柿化するかという科学的なプロセスは残念ながら不明ですが、
確実なのは黒柿が普通のカキノキより多少不利な環境で生育しているということです。

この春私は親戚を訪ねるため山形へ行く機会がありました、その折りに民芸品として黒柿の製
品が売られているのを見て、本州には黒柿文化が根付いているものだと感銘を受けました。小
さな品でも数万の値が付いていたので、もしこれを使って現代に時計を作ったら、いったい幾
らになるのだろうと想像してしまい、現在今に残っている黒柿使用の時計は途方もなく貴重な
ものだと改めて実感しました。
今回私が調べたのは主にデスクワークによる調査で、残念ながら実際に黒柿採取の現場に立ち
会ったものではなく生の取材に欠いています。私の住む北海道では残念ながらカキノキは生育
しておらず、実際どのような生育状況にあるかもこの眼で見ておりません。この先本州に行く
ことがあれば、是非黒柿の産地を訪れて自生状況を確かめたいと思っております、その折はま
たご報告いたします。

今回は皆様の期待にそえるような内容では無かったかもしれませんが、少しでも参考になれば
幸いです。


白雲木こと 菊地 敦司
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編集後記
植物植生の専門家であり仕事上殆ど原野や険しい山中ので調査に多忙な中、寸暇を忍んでの
白雲木さんの研究に頭が下がります。

4月奈良時計/古寺巡幸の旅、6月遠州徹夜の時計談義合宿の珍道中は次回とします。

編集長が此れまでに修復した古時計に軌跡の登場です。記録をしなかった時計達
の方が多く、悔やんでなりません。(未だに整理中です)

http://photos.yahoo.co.jp/ph/takumiada/lst?.dir=/cbfe&.src=ph&.view=