ーーーーーメルマガ『 チクタク No,35』  18,Mar,2005ーーーー
 今回は、滅多に入れない「 精工時計資料館」の特別展示室に突入した
白雲木さんの特別寄稿「 精工時の資料館探訪記」です。雪原に2ヶ月も
閉じ込められていましたが、何故か錦糸町に出現しました。

 プロの音楽家(pantonalistさん)か ら観た 「時計と音楽」は大変蘊蓄
が有り、音楽と時計の関連性に共感する事でしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『 精工時の資料館探訪記  』          ー  白雲木 ー

 雪も降りしきる二月末日、時計好きなら一度は訪れたい精工時計資料館に行ってま
いりましたので報告いたします。
 賢明なチクタク読者の諸兄はすでにご存知かと思いますが、精工計資料館は東京、
東向島にありまして、精工舎の時計をはじめ日本における時計の歴史を納めた資料館
であり、その収蔵は類を見ないすばらしい物ばかりと聞いておりました。一応予約制
でありますが、飛び入りも時間があれば良いとのこと、専門の添乗員が丁寧に説明し
てくれます。という訳でして、単身北の地より意気揚々と資料館に攻め入りました。

添乗員の方は、まず開口一番「この時計資料館を訪れた目的はどうしてでしょうか?」
との質問をしてきた、私は即答、「私は柱時計を集めていて、こよなく愛しております」
と。それではと、他を飛ばして柱時計の場所に直行してくれました。ありました!パリ、
ひさご、黒塗り並スリゲルの三点が目に飛び込んできた!当たり前ながらオリジナルの
よう、しかし手入れはあまりされていないよう。
恥ずかしながら私はパリとは初対面、貴婦人のようなその姿を食い入るように観察し
ました。裏側も見たかったのですがどうやら三角屋根タイプ後ろに焼印のもののよう、
初期型ではないようですが、どうしてなかなかの美人である。ほかの二台も負けじとし
ていましたが、パリ娘にはかなわず感がありました。この三台のほかにももちろん時計
はありました、ご存知石原町も2台ありました、思わずラベルを覗き込んでしまう、本
所石原町のローマ文字はそこに確かに貼られていました。

添乗員の方につい熱く時計について語ってしまったのですが、その方「少々お持ちく
ださい」とどこかに行ってしまった、戻ってこない。まあいいかと一人食い入るように
時計に見入っていたところその方がもどってきた。
こちらへ来てくださいと、資料室のような場所に案内される。「じつは展示している
のはごく一部なんです。」なに!!!まだあるのか!!と思わず叫びそうになったがじ
っとこらえた。そしてその方は何冊かの資料を私に差し出した。
それは資料館の内部資料で、精工舎のすべての時計が記された恐るべき資料だった!!
 私はショックで声がつまったが、すぐにめっくってみる、いままで解らなかったミッシ
ングリンクの幾つかがすぐに明らかになったではないか!これはすごい資料であるが時間
が押しているためコピーは次の楽しみになりそうである、させてもらえればの話であるが
、、、、。

話がそれたがこの中の印がついているものは、現在資料館に所蔵しているとのことで、
どうしても見たいものだけ、出してきてあげましょうと、うれしい申し出。吟味を重ね、
角丸、丸頭の装飾スリゲルで三尺以上ありそうなものなど三点を選んだ。まつこと十分、
埃を被った箱にそれらは収められていました。
もちろんすべて本物、感動の対面です。時間がないためじっくりとは見ることはでき
なかったが、その詳細をなるべく多く観察するようにした。

最後に館の方は「最後に特別にすごいものをお見せしましょう」と上の階に私を連れ
て行った。厳重な扉と開き中に通されて案内さてた瞬間、息を呑んだ!!
そこには無数の和時計が整然と並び、静かにたたずんでいた。ものすごい数、しかも国
宝級の逸品ばかり、ひときは大きい和時計は犬山城にあったもの、葵の紋所の入った和
時計は江戸城にあったもの。国立博物館でもお目にかかれないものばかりである。尺時
計もかなりありそれらの今まで見たことのあるものと違い、こまかな凝った装飾が施さ
れたものが数多くあった、
これほど数が並ぶとさすがに圧巻。これらの和時計は精工舎が長年収集してきたもの
だそうだが、一般には公開していないとのこと。研究者がたまにおとずれるぐらいで、
普段人の目に触れることはあまりないとこことであった。しかし時計のすばらしさを理
解してくれる人には、いつでもお見せしますと言ってくれたので安心した。チクタクの
読者なら大丈夫である。長くなってしまったが、こうして資料館見聞は終わりました。

すばらしい体験であり、時計に対する思いはさらに深まりました。もしまだ訪れていな
いかたがおられたら、機を見て是非足を運んでみてください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 時計と音楽 」                 ー pantonalist ー

 時と密接に結びついて存立している時計と音楽。私は以前から、時をはかるものが
時計、時を装飾するものが音楽であると考えていました。
 しかし、計時装置が時計と称されるのは自明としても、音楽が時を装飾するとの認
識はあまり一般的ではないかもしれません。
 では、もし時がただ無意識の内に経過し、計測されることにより知覚され、辛うじ
て振り返ることで実感できるものであるとしたら、おそらく人生は非常に味気の無い
ものになるに違いありません。
 ここに華麗で洗練された方法で時を彩る音、即ち音楽の存在意義が見い出されると
思うのです。
 ところで、多くの動作音を伴う機械式時計に囲まれて、その音に心地良さを感じる
時計愛好家は多いのではないでしょうか?そういう私もその一人なのですが、そう感
じた時、時計は図らずも音響発生装置へと変容したことになりますし、その動作音は
妙なる音楽として愛好家の耳に響いていたことになります。畢竟、時計は計時装置と
しての機能を拡張し音楽とより深く交わることになったと言えます。それでは、音楽
と時計との係わりは、他にどのような事が有るか簡単に見てみましょう。

 先ず、音楽家特に演奏家は、各々の楽器で基礎練習をする時メトロノームなる特殊
な計時装置を使用し、正確な時間制御を体得しようとします。
主体的に演奏する為にあえて機械に支配される練習をするとは何だか示唆的です。
 次に、時計の文字盤には周知のように1から12までの数字が等間隔に配置されてい
ますが、音楽の理論書をひも解くと、円周上に12個の音名が書き表わされた図を目に
する事ができます。時針、分針を取り除いた時計の文字盤そっくりです。
 又、ハイドン作曲による交響曲に「時計」と題されたものがあります。第2楽章の
規則正しいリズムによる伴奏があたかも時計の振り子を連想させるところから、後年
このタイトルが付けられたようです。
 それから、日常生活において、例えば歯磨きをする時に、3,4分の音楽を再生させ
てタイマー代わりに使用することがあるかと思います。これなどは音楽の時計化とい
えるでしょう。
 さて、人間が想い創り上げて来た時計そして音楽、一方はより高い精度を求めて、
他方はより耳新しいものへとその進化、変化は果てしなく続けられてきました。今後
もその歩みを止めることはないでしょうが、その反動として、そこそこの正確さで動
く時計それを許す緩やかな社会、あまり代わり映えしない飽和ぎみの音楽から耳を解
放し、生命溢れる地上に遍在する音に身を委ね楽しむことが可能な余裕のある社会、
そのような世界を私は希求します。
それと同時に他方で、電波時計はおろかセシウム原子時計以上の絶対精度を持った時
計を必要とする社会、先鋭的で絶えず聴覚を刺激し、人の情感の入り込む余地がない
ほど堅牢に作り上げられた音響時空間を享受する社会、このような世界を夢見たりし
ます。 
 矛盾した考えの中に日々揺れ動く意識は、振れることによってこそ意味付けられた
柱時計の振り子に例えられるのかもしれませんね。 
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自己紹介
ストン、クローク石橋。横浜市在住。72才。男。
趣味は古時計(振り子式)平成5年に東京ガスを定年退職後、
独学で時計修理を勉強して、1,500台を超えました。
メールアドレス   stoneーclock@ytv,home,ne,jp

「 苦労話し 」            ー 横浜 石橋 ー

2番車のカナ鉄芯が根元で折れてしまい、なかなか抜けなかった、ときのことです。
ある日夢の中で解決したことがあります。
カナの根元の横を1,0ミリの穴をあけ、キリ先でこじり出して、修理したことがあり
ました。
一番嬉しいことは。
古時計を分解・掃除して、コチコチ動き出したときは、最高。古ければ、古い時計ほど
達成感を感じます。どうしても、直らないときは、大ハンマーでつぶしたくなるときは
、古人が手作で作った時計だから、絶対修理できないはずがないと信じて、修理に励ん
でいます。
修理が終わり、お客様からの有難う、一声が大変うれしい、この仕事をして、良かったと
最高に思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 瀬名権さん訪問記」                 ー 亞陀 ー
 大阪で開催されるある会議の機会を利用してN市在住のスリゲルコレクター瀬名権氏
をお訪ねいたしました。奥ションでは、以前よく勝ち合い何度も辛酸を舐た仲ですが
「昨日の敵は今日の友」、待ち合わせ場所へ純白のランドローバーで颯爽と現れました。

 パワーコレクターだけに関西一円の出品者とは面識がお有りだそうだとかまた、隣県の
某時計屋さんの「このへんで良いだろう」と途中仕上段階で売っている実態、誠実なアン
ティーショップオーナー、実家の事情で里に戻っても以前のコネクションで輸入している
元商社マン等、決して公に出来ないような裏話をお聞きしてまいりました。

 玄関前には、不似合いな小型旋盤と卓上ドリルが軒下に露出されびっくり。挨拶も早々
に2階の書斎に、どこかで観た事のある(して遣られて戦利品)装飾スリゲルが整然と掲
げられいるではないか。
 それもその筈、ほとんどの獨逸製品はネットで登場したものばかりで、「黒い森」地方
の無名社製品は網羅しているようです。情報収集も旺盛で判らない事はとことんリサーチ
されるとか。自身で修理は勿論の事、ケースの不具合までも修復し、専門家顔負けのパワ
ーコレクターです。機械のみケースのみの蒐集も多く、それらを貝合わせしておられるそ
うな。カメラ・ランチュウ・電脳と多趣味な瀬名権さんでした。

 お土産で頂きました名物のN漬はとても美味しゅうございました。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
編集後記
輸送中に壊れてしまっ痛い経験をひとつ
打ち方数ガイド車の内、最も弱い部分に偶然(輸送中)にカムが引掛かり
打ち方機能(正時打ち/半打ち)が狂ってしまった事がありました。
有能な皆様でしたら、お解りですね!針は1時付近以外に移動してから梱包しましょう!
 
外国(航空貨物)から輸送中のトラブルは日常茶飯事だとか、皆様の体験談をご投稿を
お待ちしております。